本項目では,連続的に循環するループ型ベルト機構において、柔軟状態と剛体状態を切り替える手法の原理創案を行い、この概念の実機具現化について説明する.また,実機具現化した実機を用いた評価実験を通じて,創案原理の有効性を確認する.
(1)-1 はじめに
ワイヤーの引張り動作に依存しない柔剛切替機構の原理創案・実機具現化を行った.研究過程において,流体での柔剛切り替え方式は,無限循環するループ状構造への適応が困難であると考えられた.この課題の解決策として試作した柔剛切替機構を提案する.
(1)-2 従来研究
柔剛切替機構に関する従来研究には,粒状材料を利用したジャミング遷移機構や相変化機構がある.しかし,これらの機構の多くは1 次元ジャミング転移機構のように,動作中にチューブやワイヤーが接続されたままである.つまり,常に接続されているため,固定された端点とチューブやワイヤーに依存する駆動システムを伴っている.このため,柔軟状態と剛体状態を切り替えながら連続的に循環することができるループ型機構に関する研究は行われていない.
ループ型機構の主な課題は、固定された端点なしでループ循環構造内で剛性切替を実現する点である.剛性状態を切り替えるために,電磁場や温度,化学反応を使用する方法も考えられるが,反応速度が遅いため,実現が困難であると考えられる.
機械的駆動による駆動手法として,図 1 に示されるワイヤー駆動型と,図 2 に示されるくさび駆動型が考えられる.本研究では,後者のくさび駆動型機構に焦点を当てる.この機構は,くさび型の部品をベルト用ビーズ同士の隙間に入れ込むことで,ループ全体の柔軟状態と剛体状態を切り替える.図3(a) に示すワイヤー用ビーズは,従来の設計とは異なり,ビーズ中央部の穴にワイヤーを通すことでループ状に接続され,ループ全体は上下方向にのみ移動できるように設計されている.各ワイヤー用ビーズの中央部の表裏には椀状の凸部と,椀状の凹部がそれぞれあり、ビーズ同士が接触した際に整列するようになっている.
各ワイヤー用ビーズの側面にも円柱状の押出し部があり,連続するワイヤー用ビーズの押出し部にくさび機構が入り込むことによって,連続するビーズを分離できるようになっている.図 3(b) に示すストッパーは,ループ機構の下部に設置され,セパレーターとベースの 2 つの部品で構成されている.ベースはネジを利用してアルミフレームに取り付けられ,セパレーターを上げるために回転可能な別のネジが設置されている.セパレーターには,ワイヤー用ビーズの円筒部同士の間に挿入されて隙間を広げ,張力を増加させるための 2 つの押出し部がある.
この試作機は基本的な機能を実現しているが、剛性切替を行う動作に重要な,張力の制御に関して十分に機能していない点が挙げられる.具体的には,張力が増加するとワイヤー用ビーズは物体を掴む代わりにまっすぐになってしまう.また、張力が過度に減少すると、ワイヤー用ビーズが緩んでホイールからずれてしまい機能不全に陥る.さらに,ワイヤー用ビーズが図 4 のように回転してしまうことで,セパレーターを入れ込むことが困難になる.
以上から,本研究では,ローラー型可変剛性機構のくさび駆動型について,上記の課題を解決するための原理創案・実機具現化を行った.
(a) コンセプト図
(b) 実機具現化
(a) コンセプト図
(b) 実機具現化
図1. ローラ型可変剛性機構のワイヤー駆動型
図 2. ローラー型可変剛性機構のくさび駆動型
(a) コンセプト図
(b) 実機具現化
図3. くさび駆動型機構の構成部品
図 4. くさび駆動型機構のねじれ問題概観
(2)-1 基本原理
従来研究からの主な改良点は以下の 3 点である.
1点目は,図 4 に示すねじれ問題を解決するために,ビーズをまとめる内部要素部品として,ワイヤーではなく断面が横長の長方形となるベルトを用いた点である.ワイヤーは断面が円形であり,縦幅と横幅が同じため,ねじれ問題が生じてしまう.一方,断面が横長の長方形となるベルトを用いることで,横幅よりも縦幅の方が極端に小さく,回転が生じることを防いでいる.
2点目は,図3(b) に示すストッパー機構を上下反転させ,ループ機構の上部に取り付けることで,不要なストロークを排除した点である.機構を動作させる際は,セパレーターを下方向に進行させて,ベルト機構ビーズの円筒部同士の間に挿入する.従来の手法では,ベルト機構が重力方向に垂れ,ベルト機構自体を持ち上げるためのストローク可動が必要であった.一方,今回の手法では,ベルト機構が重力方向に垂れることを防ぐための支え面を製作し,無駄なストロークが発生しないようにした.また,ストッパー機構を上部に移動させることで,セパレーターを作動させるためのねじを回転させる工具の挿入可能領域を確保することも可能にする.
3つ目は,ホイール部からベルト機構が脱輪することを防ぐために,押さえ部品を追加した点である.柔剛切り替え時に,ビーズの厚みが増加するとベルト機構は外側に広がるように作用する.それにより,曲率が高いホイール部からの脱輪する可能性がある.この脱輪を防ぐことにより,くさび機構によって増加した張力を効率的に伝達することが可能となる.
(2)-2 実機具現化
具現化した実機を図 5 に示す.三面図は図 6 に示す.基本パラメータは表 1に示す.
表 1: 履帯式可変剛性機構の基本パラメータ(モーターを除く)
図5. 履帯式可変剛性機構概観
図 6. 履帯式可変剛性機構三面図
ベルト用ビーズの概観を図 7 に示す.図 7(a) のCAD 図を基に,光造形 3D プリンター Form3(FormLabs Ltd., USA)を用いて製作した.使用材料は Clear resin v4(FormLabs Ltd., USA)で,ヤング率は 1.3GPa である.Clear resin は同社の他の材料と比較して,摺動性に優れている.また,時間経過や温度による融解も生じ難いため,この材料を選定した.同様に,くさび機構のベースとセパレーターも同様の条件で造形・製作を行った.
ベルトには,幅 25 mm, 厚み 1.2 mm のポリエステル製ベルトを使用したベルト用ビーズとの摺動性を考慮し,ポリエステル製を選定した.160 個のベルト用ビーズの中央部に同一のポリエステル製ベルトを通してループ状に加工した.初めに 155 個のベルト用ビーズを通した後,端部同士をアラミド繊維で縫い合わせてループ状にした.その後,半分に切断した状態で残り 5 個のベルト用ビーズを製作し,ベルトの左右から合わせ.ステンレス製平行ピン(半径 1 mm, 長さ 10 mm)を圧入して固定した.
ホイールは,3D プリンター Mark Two(Markforged. Ltd., USA)を用いて製作した.使用材料はマイクロ炭素繊維充填ナイロン Onyx(Markforged. Ltd., USA)であり,その曲げ強度は 71Mpa である.このホイールは,シャフトとカップリングホルダを通じて,サーボモータ DYNAMIXEL xw430-T200-R(ROBOTIS Co.,Ltd, South Korea)に接続されている. DYNAMIXEL は同社のUSB シリアル変換インターフェース U2D2 と, U2D2 PHB Set, 12V AC アダプターを用いてコンピュータと接続可能であり,同社ソフトウェア DYNAMIXEL Wizard 2.0 を使用して回転の制御を行うことが出来る.
(a) コンセプト図
(b) ベルト用ビーズの実機具現化
図 7. 履帯式可変剛性機構のベルト用ビーズ
(2)-3 実験
(2)-3-1 連続循環実験
サーボモータを稼働させて無限遠回転が可能か検証するための実験を行った.実験の様子を図 8 に示す.図中の赤丸は目印となるシールを示している.図 8 から,13 秒間で 1 周していることが確認できる.さらに,0 秒目と 13 秒目の状態に変化が見られないことが分かった.このことから,摩耗などの影響を考慮しなければ,この回転を無限に繰り返すことが可能であると確認できた.
(2)-3-2 剛性評価実験
引張圧縮試験機を用いてベルト機構の剛性を評価する実験を行った.使用した引張圧縮試験機は,STB-1225s(エー・アンド・デイ社,Japan)である.データ処理は同社の汎用試験機データ処理システム TACT(Tensilon Advanced Controller for Testing) を使用いた.具現化した実機を引張圧縮試験機に取り付けた概観は図 9 に示す.
引張実験を行い,得られた試験データを図10 に示す.図10 の結果から,柔軟状態としての低剛性モード(Low Stiffness Mode) と剛体状態としての高剛性モード(High Stiffness Mode)において,荷重に差があることが見て取れる.つまり,具現化した実機が創案原理通りに動いていており,柔剛切替が実現していることが確認できた.
(2)-3-3 表面適合実験
ベルト機構が柔軟状態と剛体状態の各状態における,不均一な表面に適応する能力を実験により確認した.
ベルト機構が各状態にあるとき,ベルト機構が垂れさがる最下点を原点基準として,横幅 100mm の凸なブロックを原点基準から 60mm と 85mm の地点まで持ち上げた様子と,同じく横幅 100mm 凹なブロックを原点基準から 60mm の地点まで持ち上げた様子をそれぞれ撮影した.図 11 には剛体状態での様子を,図 12 には柔軟状態での様子を示している.
ベルトパーツの上下方向の標準偏差が大きいほど,より柔軟な変形をしているとみなして評価を行った.まず,横幅 100mm の凹凸ブロックに対して,その 100mm の範囲内に存在するベルトパーツの円柱部の中心を写真からプロットした.次に,凹凸ブロックの上面を通る平行線から,ベルトパーツの縦幅の半分を足し合わせた平行線を基準線とし,その基準線と各ベルトパーツの円柱部の中心との鉛直方向の距離の絶対値とベルトパーツ数を算出し,その標準偏差を求めた.計算結果を,表 2 に示す.
結果から,柔軟状態の方が対象物体である凹凸ブロックに対して,より表面適合をして接触をしていることが確かめられた.
また,図13に示すように,CTを用いて線状柔剛切替え内部現象(ワイヤとビーズ内部の接触部分)を分析しており,ワイヤ断面形状を可変にしながらも軸方向には伸展を拘束させた軸方向伸展拘束型流体供給チューブ要素などの革新的な要素のアイディア創出にもつながっている.これにより,軸方向に引くことでの剛性変化に加え,径方向への変形による副次的な剛性可変も可能となり,これらの組み合わせにより,剛性の分布という従来困難であった機能を実現できる可能性がある.
さらに,円状断面化した場合は,楔打ち込み部が内部に限られるものの,図14-16に示すようにループ構造端部において,球状の一部の断面を構成するグローサを複数並べて,その間に楔を打ち込むことにより柔剛切替えが可能であることも,具現化した実機を用いた基礎実験により確かめた.
ループの直線部分においては,従来の楔挿入式の柔剛切り替えと同様に剛性を変えることが可能である.ループ端部においては,図15に示すように,グローサ同士の間隔は幾何的に一定の距離を設定する必要があり,この箇所でのジャミングは容易ではないが,2段構成ベルト構造にすることで,この箇所での剛性可変を可能とするアイディアも,本プロジェクトを通しての実機構成・具現化した実機を用いた基礎実験を通じて生み出すに至った.
図 8. 履帯式可変剛性機構の連続循環実験
図 9. 引張圧縮試験機による剛性評価実験 概観
図 10. 剛性評価実験による結果
(a) 凸型 60mm 地点 (b) 凹型 60mm 地点 (c) 凸型 85mm 地点
図 11. テンションをかけたベルト機構
(a) 凸型 60mm 地点 (b) 凹型 60mm 地点 (c) 凸型 85mm 地点
図 12. テンションをかけていないベルト機構
表 2: 表面適合実験:ベルトパーツ位置の標準偏差[mm]
図13.CTによる線状柔剛切替え内部現象解析の例
図14. 円状断面グローサへの楔型柔剛切替え方式の適用
(具現化したグローサ外観)
図15. 実機具現化したグローサ列外観
図16.実機具現化したグローサ列外観
(2)-4 結論と展望
本研究では,連続的に循環するループ型ベルト機構において柔軟状態と剛体状態を切り替えられる機構の原理創案・実機具現化を行った.具現化した実機を用いた 3 つの実験を通して,具現化された機構についての評価を行った.結果として,ベルト機構は無限回転が可能であること,柔軟状態と剛体状態との間で剛性に差異があること,柔軟状態の方が剛体状態よりも表面適合性が良いことが確認された.今後は産業X線CTにより,ループ状1次元ジャミング機構が柔剛切り替えのタイミングでどのように遷移していくのかの画像詳細データを分析し,さらなる応答性・耐久性の高い柔剛切替えを行う部品の形状・寸法を吟味した機構設計にフィードバックし,実用化を目指す.
今後の応用先としての展望について述べる.下肢および歩行リハビリテーションのために,様々な機器が研究・開発されている.その中でも、トレッドミルは広範な研究が行われており,床反力を調整する可変剛性トレッドミルや,不整地歩行に関する研究等が行われている.しかし,可変剛性ベルトの柔軟性を持つトレッドミルに関する研究は行われていない.図17に示すようなトレッドミルが垂直方向の移動を生成し、さらにその剛性を変化させることができれば、屋外での坂道や階段を歩く動作をシミュレートするための機器に活用可能である.さらに,仮想現実や多様な物体を把握して形に合わせる図18に示すようなロボットハンドなどの応用にもつながる可能性がある.
(a)基本概念
(b) 実機具現化
図17. ローラー型可変剛性機構を備えたトレッドミル
図18. ローラー型可変剛性機構を備えたグリッパー